「恋文の技術」
能登の研究室に追いやられた修士生が、地元京都の知り合いに出した
手紙で話が進んでいく。途轍もなくバカな内容ながら、某大学の学生
ならあり得るかもと笑ってしまう。作中には作家本人も出てくるという
面白さ。ラストはいいまとまりで納得の読了感。手紙でのやり取りを
してみたくなった。
「爆弾」
酔っ払って警察に連れてこられた男が不意に爆弾の存在を仄めかす。
人を食った態度で刑事を翻弄し、ヒントを出す形で対決の構図になる。
半分以上が取調室でのやり取りで、あとは爆発に絡む場所での動きが
描かれている。最後に近づくにつれ犯人の異様さが際立って、気持ちの
良い読後感ではないものの面白くはあった。
「もう別れてもいいですか」
定年前の夫がいる主人公。結婚して30数年の我慢が爆発して夫のいない
生活を夢見る。旧友が離婚した事を聞いて自分もしたいが1人で生活する
だけのお金が稼げるか、田舎で周りの目も気になり朝は離婚すると決めても
夕方には無理と思う繰り返し。こんな妻はたくさんいるだろう。
自分の奥さんがこんなふうに考えてたらと思うとなかなか背筋が凍る。
ここまで悪い夫ではないと思いたいが、それは自分だけが思ってるだけ
なのか、奥さんが知るのみw
2024年12月
「作家刑事 毒島」
帯に痛快!とあり中山七里の本だったので楽しみにしてたけど、
あまり好きじゃない短編集だった。キャラは面白いけど御子柴
シリーズに比べるとイマイチ。登場人物は出版に関わる人たちで、
全部が全部ではないにしても近いところはあるんだろうな。
解説にもあったけど、ほぼ寝ない食べないという改造人間もどきの
作者からあんな作中のセリフを言われたら誰も反論できなさそう。
「明日は結婚式」
新郎新婦とその家族一人一人の結婚式前日の様子を描いた作品。
みんないい人で、本当にたわいもない日常の一コマで穏やかに読めた。
中にも出てきてたけど、自分の結婚式の前日に何をしていたか、
どんな事を考えていたか全く覚えてない。みんなそんなもんかな。
「高校事変 22」
今回は結衣と凛花、瑠那と伊桜里に分断されてそれぞれが暴れる。
諸外国から圧力がかかり、何かしらの成果を求められて行き詰まった
政府が暴挙に出るも、SLBMの制御を乗っ取られてあえなく降参。
ラスト矢幡首相が死んだかのように描写されてるけど怪しいとふんでる。
それにしても寝返りが激しくて、どれも匡太の罠じゃないかと
勘繰ってしまう。さてこのあとどうなるのか。
2024年11月
「おじさんは傘をさせない」
一昔前の考え方から抜け出せない社員と定年後のおっさんの話。
章ごとに登場人物が引き継がれてそれぞれの登場人物はきっかけを
得て考え方が変わる。少しの余裕があれば気づけたのに世の移り
変わりについていくのに必死だったのかも。決して人ごとではない。
「山手線が転生して加速器になりました。」
エボラを凌ぐ感染症が蔓延した先の近未来の短編集。短編は好きじゃない
けどタイトルに惹かれた。そのタイトル作は人がいなくなった東京で、
山手線がヒッグス粒子などを取り出す加速器に変えられ且つ意思を
持っている。しっかりした円形ではないのに加速器として成り立つ理由も
書かれてたけどあれはフィクションなのか?僻地に住む人々の生活が
コメディ、シリアスの両面で書かれてて面白いけど、最終章は毛色が違って
面白いだけではない作品でした。
「高校事変 21」
理想しか見えてないNPOの巻き添えなった瑠那と父親に懐柔されそうに
なる伊桜里。どちらもハラハラする状況で、最後に最強姉妹が登場。
新たな仲間(?)もできて次巻から最終章に突入らしい。これまでとは
違う力でゴリ押しするのでもない父親にどう立ち向かうのか楽しみ。
2024年10月
「ヴィクトリアン・ホテル」
老舗ホテルの複数の客がそれぞれ主人公。それぞれが自分の行動を
批判的に捉えられた事で思い悩む。全ての人に共感してもらえる事など
ないのに、批判的な意見の方を気にしてしまうのはわかる気もする。
気持ちの持ちようを心地いい言葉で書かれているのは良かったが、
途中から「え〜っ」という展開になってびっくり。気持ちよく読み終えれた。
「絶対正義」
高校の同級生5人が内1人の規律正しい女生徒のおかげで苦境を乗り切る。
それぞれ違和感を持ちながらも、大人になって再会する事で歯車が狂いだす。
共謀して殺したはずが数年後に本人から招待状が送られてくる。
思いやりや忖度は一切通じない正義に読んでいても怖さを感じた。
ラストは今話題のSNSでの糾弾の延長上にあるとも取れて、なおさら
怖い終わり方でした。
「忍者に結婚は難しい」
前にこの作者で読んだ「ルパンの娘」の現代忍者版のような話。
現代に生き続けている伊賀と甲賀の忍者。お互い敵視している中で、
相手がその忍者と知らずに結婚をしるが倦怠期。そんな中で妻に
議員殺しの容疑がかけられて。。。まあまあ面白かったけど、
ルパンの娘にはおよばない。
2024年9月
「高校事変 20」
ついにシリーズ20巻。今回はなんと矢幡総理がやむなく敵に回る。
大きなものを守るために小さな犠牲は仕方ないというのは当事者に
しかわからない。敵の敵は味方という図式になった理由が頭の悪い
私にはちょっとわからない。娘を引き入れようとする策ならそれは
崩れたことになる。まだ終わりそうにはないかな。
「夏休みの空欄探し」
クラスに友達がいないパズル好きの高校生が、ひょんなことから美人姉妹の
謎解きに参加する。途中から同姓(イケてるほう)のクラスメイトも
参加する。それまで日の当たる場所には縁がないと思っていたのに、
そこに足を踏み込んでみると景色や考え方も変わっていく。
ラストは切ない終わり方やけど、高校生の青春はこれが似合う。
「先祖探偵」
この作家さん別のところで知ってたけど初読み。主人公は昔母親に
置き去りにされて、自分の本当の名前や出自を知らない女性。
その過去もあって先祖を調べる探偵をしていて、様々な依頼が舞い込む。
世界的にも珍しい部類の戸籍なるものがあるが故にトラブルになり
それがミステリになってて面白い。特に最後の章はある意味納得させられた。
2024年8月
「猫を処方いたします。3」
シリーズ第3弾。今回も猫を処方されて本来の自分を取り戻せる人が多数。
でも最後はこの病院ができたきっかけの話で、実際におこってる劣悪な
環境が描かれる。まだちょっと続きそう。
「みんなのヒーロー」
昔ヒーローモノの主人公だった落ち目な俳優が主人公。ひき逃げを
したところをファンに見られて、結婚を強いられる。理想とのあまりの
ギャップがあるが、ひょんなことからまた人気が出だす。登場人物全員が
本心とは違う言動をしていて怖いけど、最後はそう落とし込むか、と
面白かった。
「野球が好きすぎて」
久々に読む作家。実際にプロ野球で起きたエピソードに絡めて起こる
事件に挑む親娘の刑事が主人公。でもこの2人全く事件を解決せず、
いつもバーにいる広島ファンによって真相を解き明かされる。
よくこんなシチュエーションを考えたと感心する。
「書棚の番人」
昔実際に会った未成年による猟奇殺人をモチーフに、犯人の
幼馴染である主人公が書店員になったが、事件から17年経った
時点で犯人が告白本を出版するところから始まる。犯人の
家族だけでなく、その友人たちも受けた迫害や影響が大きく、
なぜ今更と困惑が始まる。ラストはやり切れない内容で、
面白いものではないけど、実際にもあり得そうで作品としては良かった。
2024年7月
「実は、拙者は。
普段時代劇ものは読まないのが、帯を見て興味がそそられた。
長屋に住む主人公は、目の前にいても気付かれないほど影が薄い。
そのせいでいろんな裏の事を知ってしまい騒動に巻き込まれる。
途中である程度予測はついたものの、この時代だから描ける内容
だったので、これはこれで面白かった。
「名探偵のままでいて」
レビー小体型認知症になった祖父とその孫娘。普段は幻を見たりする
祖父が、孫娘が持ち込む不可解な話をその場で解き明かす安楽椅子探偵モノ。
最終章は周りの人間も活躍して、大きな謎も解き明かされる。全てにおいて
完全ではないものの、大半は納得できるもので面白かった。
「新!店長がバカすぎて」
文庫化待ってたシリーズ。休憩室で読んでるのにしょっぱなから
声を出して笑いそうになり、笑いを堪えて顔がにやけるのを我慢
する必要にせまられた。慣れのせいか1作目ほど人物にインパクトは
なかったものの、中に出てくる本とこの本との関わりや、最終章の
トークイベントにまつわるシーンはワクワクさせられた。ラストでは
まだ続編があるのか?というシーンも出てきてどうなるのか。
2024年6月
「高校事変19」
いつまで続くのかこのシリーズ。と思いつつも読んでしまう。
今回は結衣だけでなく他もそれぞれ活躍するのでそこが良かったのと、
ラストの切り返しがご都合と言われる可能性大だが面白かった。
この感じやとまだまだ終わりそうにないなー。
「選ばれない人」
ある事がきっかけで中学から思った会社に就職することだけを目標に、
普段だけでなく寝る時もスーツというかなり偏った考えの大学生が主人公。
周りの学生は全て敵と思っており、就活でも人を貶め自分をよく見せるが、
担当者には見抜かれ全敗。この辺りの描写は読んでてキツいところもあるが、
周りの友人に知らず知らずのうちに役立っており全体的にはハートフル。
ラストではユーモアも持ち合わせていていい終わり方だった。
「能面検事の奮闘」
長い間文庫化を待ってた。前作より能面ぶりが弱く感じたのは慣れか。
今回は同じ検事の隠蔽疑惑に立ち向かう。一度終わったかに見えて
さらに突っ込んだラストはおもしろかった。被疑者との直接対決も
そこそこやったけど、上司や最高検から来た面々との対決も面白かった。
2024年5月
「ディープフェイク」
テレビにも出演していた中学教師が、ある日突然教え子とホテルに
行ったと週刊誌に記事が掲載され、ネットでも事実無根の動画や
中傷が氾濫する。それに伴い周りの人にも変化が出てきて、それまでの
教師生活に疑問を感じるまでになる。デマを調べもせずに乗っかる
人は実際にいて、全くの人ごと、フィクションとは思えない怖さがある。
「凛として弓を引く 初陣篇」
シリーズ3作目。同好会として活動を始め、初の試合で男女とも悔しい
思いをしてさらに練習に励む様子はまさに青春。その合間に弓道会での
話や進学に向けての話もあって、大人でも聞いておくべき言葉が出てくる。
このシリーズを読むたびに、高校でやっておいたら良かったと思う。
弓道場がある学校は珍しかったんじゃなかろうか。
「高校事変18」
父親が生きていたと分かり兄妹に影を落とす。今回は結衣がメインと
なって瑠那や凛花の出番があまりなかったのが残念。匡太が生きている
事が世間に知られてしまい、今後の展開が気になる。次でラストか?
「本のエンドロール」
印刷会社の営業マンが主人公で、自社では製版、デザイン、印刷、管理。
他社では出版社から製本会社まで幅広く本を作る工程が描かれている。
それぞれの思いやプライドがあって、当然トラブルもあり、それでも
なんとか乗り越えていくお仕事小説。話の中でも電子出版が増えて
きていて紙と入れ替わる未来が近づいている。本屋に行くと多くの本が
並んでてそんな風には見えへんし、そうなってほしくはない。本好きが
読むとその後違った見方もできるかも。
2024年4月
「テミスの剣」
殺人で逮捕され死刑判決が下された男が獄中で自殺する。数年後に
真犯人が捕まり冤罪だった事が判明。逮捕尋問した刑事が、組織に
逆らって事実を暴いていく。かなり早い段階で冤罪がわかりその後
どんな展開になるのかと思っていたらまさかの結末。途中で犯人は
わかったものの、真っ当な人間がほぼいない作品でちょっと重かった。
「お梅は呪いたい」
500年前に呪いの人形として恐れられ、封印されていたものが現代で
家を取り壊す時に封印が解かれる。意識を持って人を呪い殺そうと
する人形。持ち帰った人間を早速呪い殺そうとするのだが、時代は
大きく変わっていて思うようにはいかず、逆に幸福にしてしまう。
持ち主が変わるたびに次こそはと意気込んでも結果は幸せに。
いくつかの話が最後につながって、その点でも面白かった。
2024年3月
「弁護人の証人」
1963年に発売された小説らしい。最初の方のセリフでミスリード
させられて、最終章まで気づけなかった。それ自体はすごいんやけど、
昔とは言え警察がもうちょっと突っ込んで捜査しそうなものだがそれを
言い出すと話にならないのでやめ。少し読み返したら確かに違和感を
感じてもおかしくない描写もあるけど、なんせ言葉遣いが古いから
それも気付けない一因やったかも。
「役職定年」
役職定年になって仕事をせず1日ダラダラ過ごしている妖精さんと呼ばれる
厄介者を絶滅するために転職してきた主人公の話。そこそこ大きい会社なら
1人は同じようなのがいるのでは。不当解雇と言われないように策を練るが、
相手も筋金入りで思うように勧められないのがもどかしい。最後は物語らしく
大団円となるが、自分も定年に近づいてきて身につまされる。
「あと十五秒で死ぬ」
死ぬまでに15秒の猶予がある、という幾つかの設定で短編で話が進む。
同じテーマでこれだけ違う話を作るのがすごいと思った。死神が出てきたり、
首を付け替えられるといった突拍子もない設定やけど面白かった。
2024年2月
「それでも会社はやめません」
会社のお荷物とレッテルを貼られた人が集まる部署に入社早々に
異動させられた主人公。ある人に出会って自分は本当はどうしたいのかを
考えるようになり、周りも巻き込んでいく。効率、生産性は大事やけど、
それだけでもダメで、どこで折り合いをつけるのか。こんな主人公の
ようにはなれないけど、あともうちょっとの仕事人生を考えさせられた。
「高校事変17」
驚愕の事実が判明。ここまで想定してシリーズこれまでを作って
きたとしたらすごい。でも新たに出てきたキャラがちょっと
強すぎるのはいただけないかも。次作で本当の最後になるか?
「じい散歩」
90歳近い老夫婦と未婚の息子3人。老婆は旦那の浮気を疑い、長男は
引きこもり、次男は家を出てるもののゲイ、3男は事業に失敗して
無心となかなかの状態の中で、主人公のじいさんが散歩をしながら
これまでの人生と今を語る。普通の日常に近い物語ながら、
つまらないとはならないのがすごいかも。
2024年1月